オジサンの料理術    日本の食文化について考える料理の基本的な知恵「さしすせそ」

03. サ・シ・ス・セ・ソの科学

前回、素材に「隠れている旨味」を如何に引き出すかが調理の基本だという事、その為には調味料の機能をしっかり理解しなければならないと書きました。
この、「サシスセソ」は調理をする時の調味料の使用手順を簡潔に言い表した言葉として、ご存知の方も多いと思います。語呂も良く、大変理にかなった便利な言い回しだと感心しています。しかし何時、誰が言い出した言葉なのか調べてみましたが、残念ながら判りませんでした。
五十音表記(アカサタナ・・・)が定着したのが室町時代と言われていますから、それ以後使われるようになったのは間違いありませんが、食物史家の平野雅章先生(※)は「江戸末期か明治の初めあたりからではないか」とのこと。又、誰が言い始めたのかについては「ことわざと言うのは、庶民の間に自然発生的に生じたもので個人を特定する事はできないし、その必要もないでしょう」というお話でした。先人の残してくれた食生活の知恵として引き継いでいきたいものです。

(※)平野雅章氏は、1931(昭和6)年千葉県生まれ 早稲田大学文学部心理学科卒。北大路魯山人に師事して美術、料理を研究。著書に「魯山人味道」「食物ことわざ辞典」「たべもの歳時記」等、多数がある。

さて、最近は「サ」は砂糖、「シ」は塩、「ス」は酢、「セ」は醤油、「ソ」は味噌、と解釈している方が圧倒的です。ではそれぞれの調味料の効用を列記してみましょう。

  1. 砂糖
    • 水と馴染みやすいので、素材に早く水分(だし等)を染み込ませる
    • 保水性が増して日持ちが良くなる
    • 水分の多過ぎる素材からは水分を抜き取る
    • タンパク質の固まる温度を高める
    • 浸透圧によって、余分な水分を取り、旨味を凝縮させる
    • 生臭味も水分と一緒に抜く
    • タンパク質を凝固させるので、歯応えが良くなる
    • アミノ酸や核酸などの旨味成分を強く感じさせる
    • 殺菌作用があるので、保存性を高める
    • タンパク質を凝固させる
    • 水分を引き出し、味を染み込み易くする
    • アク抜きを助け、素材の色を白くする
    • 魚臭を中和する
    • 骨を柔らかくして、カルシュウム分を引き出す
    • 脂っこさを隠す
  2. 醤油
    • 複雑な旨味を加える(アミノ酸・コハク酸・ブドウ糖・乳酸等)
    • 馥郁とした香りを加える
  3. 味噌
    • 多量に含まれているアミノ酸が旨味を加える
    • 乳酸が生臭味を消す
    • 香りをつける
    • 以上がサ・シ・ス・セ・ソに該当する調味料の効用ですが、酒と味醂が入っていません。
      先ず味醂についてですが、もともとが「女酒」と言って飲用だったものを、明治以降料理にも転用が利くということから使われるようになった新しい調味料なのです。その上効用も複雑で、サ・シ・ス・セ・ソの何処に入れるか特定できないのです。味醂の効用を知っていただければご理解いただけるものと思います。

  4. 味醂の効用
    • 奥行きのある甘さを出す
    • 複雑な旨味を加える
    • 煮崩れを防ぐ
    • 生臭味を抑える
    • 加熱すると褐色になり、良い香りを出す
    • 糖分が素材の表面に膜を張り、艶を出す
    • アルコールの浸透力によって、煮汁の味を素材に染み込み易くする

処で「酒」は何処に入るべき調味料なのでしょう。その効用から考えれば最初の「サ」のところであるべきでしょう。「サ」は一般的には「砂糖」と解釈されていると書きましたが、これが大きな間違いのもとなのではないかと思うのです。砂糖が一般的に使われるようになったのは江戸末期ぐらいからと考えられますので、千年もの昔から使われてきた「酒」こそ「サ」の主役に相応しい調味料であると言って良い筈です。とは言っても砂糖の調味効果を考えれば、全くはずす必要はありません。従って私は、講演等でお話する際にはサシスセソの上にもう一つ「サ」を付け足して、「サ・サ・シ・ス・セ・ソ」と憶えてくださいとお話しています。

昨今書店の棚にはレシピ本が処狭しと並んでいます。ところが調味料の機能をしっかり説明した本は殆んど見当たりません。特に「酒」を調味料として、はっきり認知している本は皆無と言って良いでしょう。にも拘らず、殆んどのレシピに「酒」が使われているのはどうしてなのでしょう。この矛盾に著者の皆さんはどう答えるのでしょう。

私は、調理の基本は「素材から旨味を引き出すことである」と強調してきました。その為には調味料の機能を良く知っていただきたいのです。砂糖・塩・酢・醤油・味噌・味醂・酒の内、素材から旨味を引き出すのに最も適しているのが「日本酒」なのです。

※「オジサンの料理術」に関するご感想・ご意見は … info.02.pod@polano.org
00010203040506070809101112131415161718

ニュースレター

NPO法人 ポラン広場東京
特定非営利活動法人
ポラン広場東京

〒198-0052
東京都青梅市長淵
4-393-11

TEL 0428-22-6821
FAX 0428-25-1880