オジサンの料理術    日本の食文化について考える料理の基本的な知恵「さしすせそ」

12. わたしの味付け理論

<味>という文字を分解すると、口偏にいまだしとなります。大変漠然としていて、何のことか判りませんが、私流に解釈すれば、<味>を極めるというのは、至難の技であるということを意味しているのではないかと思っています。永年、味造りに携わってきた者としてはその真髄に少しでも近づきたいという想いが人一倍強いのです。
そこで私は<味>の要素そのものにまでさかのぼって考えてみることにしました。
普通<味>には5つの要素があると言われてきました。

  1. 甘味
  2. 塩味
  3. 辛味
  4. 酸味
  5. 苦味

しかし、最近では<うま味>を加えて<辛味>を削除するのが学会の常識となっていますが、私は否定する立場です。(*1)

さて、人間が誕生して最初に出会う味が、母乳で経験する1.の甘味であり、次に生理的な必要から2.の塩味に出会います。従って、1.と2.はすべての人類、共通の味であり、なんらの学習なしに体験できる<味>であると言えます。しかし、3.から5.の味については、その人間が住んでいる、自然環境から身を守るためであったり、より豊かで快適な味、つまり、美味しい味を求めようと祖先から学んだり、自ら工夫したりして、獲得した味であると言ってよいでしょう。
こう見てきますと、飽食の時代と言われる現代の味造りには、3.から5.のあじ、<辛味><酸味><苦味>がポイントにならざるを得ません。

まず<辛味>ですが、その主役はなんといっても香辛料でしょう。我国は気候温暖な温帯に位置している関係で生理的に激しい味の香辛料は必要としませんでした。わさび、和がらし、生姜、七味、さんしょう等、いずれもマイルドな味の香辛料で事足りていたわけです。しかし多くの日本人が海外旅行をするようになり、各地の料理に親しみ、現地で使われている香辛料の良さ、旨味を知るところとなりました。その結果国内で供される料理や加工品にも新しい香辛料が次々に使われるようになってきています。その他、香辛料には現代社会特有のストレスを解消するための効用もあるのではないでしょうか。

次に、<酸味>について考えてみましょう。昨今の日本人は酸味にすっかり弱くなってしまいました。からい(塩分の強いもの)、堅い、黒い、(食品業界の3K)ものは売れないというのが業界の通説でしたが、最近では、これに酸っぱいものが、プラスされてしまったようです。しかしこの酸味のもつ清涼感は、ほかの味では決して出せない貴重な味ですし、健康維持には欠かせない味であるということは、どなたも良くご存知のところです。従って、調理、または加工するにあたっては、隠し味として如何にうまく使うかがポイントになるでしょう。

最後が<苦味>です。「にがみ」と聞いただけで顔をしかめる人が多いことでしょう。ところがちょっと見まわしてみれば、世の中に<苦いもの>はあふれています。酒、タバコ、コーヒーをはじめとして、いわゆる、趣好品といわれるものの味の正体はすべて<苦味>であると言っても過言ではありません。
最近では沖縄特産であったニガウリが日本全国で食べられるようになるなど、不思議な現象も起こっています。私の若いころには、女性が人前でタバコをすったり、酒やコーヒーを飲んだりという姿をみることは殆どありませんでした。しかし昨今は、コーヒーのチェーン店は大繁盛ですし、客層も若い女性が圧倒的です。つまり<苦味>に対する男女差は全くなくなったと言って良いのではないでしょうか。

一方、この<苦味>という味は、習慣性を持つという特徴があるところが面白いところなのです。体に悪いと思いながらも、タバコや酒がなかなかやめられないのが、なによりの証明です。従って、料理屋であれ加工品メーカーであれ、リピーターを多く持つことが勝敗の分かれ目であることは自明の理ですから、如何に上手に、この<苦味>を自社の製品なり、料理に取り込むことができるかにかかっていると思うのです。
ところがここで大変やっかいな問題があります。いわゆる食品添加物の問題です。
現在国が認可している食品添加物は400種類以上もあり、その殆どは化学薬品なのです。これらの味はどうかと言いますと、いずれも<苦味>そのものなのです。つまり食品添加物が、隠し味の役目を果たしてしまっているのではないかと考えています。
食品添加物の危険性が色々取り沙汰されながらも、依然として添加物だらけの食品が売れつづけている原因の大きな要素になっているのは間違いないところです。前述した通り<苦味>は習慣性をもっていますから誠に始末が悪いのです。

そこで私は、優良な調味料と香辛料の組み合わせで、<苦味>を隠し味として、調理および加工品にとりこみ、印象に残る味、つまり一度食べたら、また、なんとなく食べたくなるような味を作り出す方法を考えて実行してきました。優良な調味料は、驚くべきパワーを持っており、味を良くするばかりではなく、日持ちさえも大幅に伸ばすことができますし、食べてくださるお客様の健康にも寄与できることになります。とは言っても、素材、地域差、好み、等々で微妙に変化しますので、<苦味>の上手な取り入れ方の公式的なものはありません。<苦味>を究めてこそ本物のグルメだといわれる所以です。
ご家庭でも推理と感性を働かせて大いに苦味を取り込んでください。

(*1)
冒頭で、私は<うま味>を味の要素に加えることに賛成しかねると、申し述べましたが、学問の世界では、1985年(第一回うま味の国際シンポジュウム)以来5番目の基本味として認知されています。そのかわり<辛味>が省かれています。その理由として、人類には<辛味>を感知する脳の生理的機能が無く、<うま味>にはそれがあるからだ、とのこと。しかし私は、味を文化として捕らえる立場ですから、敢えて異論を唱えたいのです。
<うま味>に対する感じ方の多様性は、無限と言ってよく、その評価は人種、性別、年齢、体調、精神状態等々で、全く異なります。<うま味>を一律的に定義するのは無理がありすぎます。<味>と言うのは、人種、民族、個人、それぞれの生活や文化の集大成そのものの筈ですから。

※「オジサンの料理術」に関するご感想・ご意見は … info.02.pod@polano.org
00010203040506070809101112131415161718

ニュースレター

NPO法人 ポラン広場東京
特定非営利活動法人
ポラン広場東京

〒198-0052
東京都青梅市長淵
4-393-11

TEL 0428-22-6821
FAX 0428-25-1880