オジサンの料理術    日本の食文化について考える料理の基本的な知恵「さしすせそ」

09. 「酒とだし」こそ和食文化の原点

基本とか基礎調味料という言い方があります。辞書にも出ていませんので、小売店や料理研究家の皆さんが勝手に解釈されているようで、中にはマヨネーズやケチャップまで入れている例があるほどでわけが解りません。おそらく使用頻度の高い調味料という位が判断基準になっているのでしょう。しかし、調理を科学として捕らえ、「素材の味を引き出すことに始まる」という立場をとっている私にとっては、もっと厳密に考えるべきだと思っているのです。基本という以上、他の調味料にはない優れた特性を持っていなければなりません。なくてはならない必須な調味料こそ、本当の意味での基本調味料と言えるのではないでしょうか。それが「酒」と「だし」なのです。

「酒塩」「酒だし」という古い言葉があります。 「酒塩」=さかしお= とは「日本酒を料理に使う事又はその酒」を言います。以前お話した通り、千年も前の平安時代の末期には料理用語として定着して以来、日本酒は調味料として使い続けられてきました。こうした伝統を色濃く継承しているのが「京料理」であると思います。「薄味なのに美味しい」と評価されるのも日本酒の力と「だし」による部分が大きいのです。
一方、「酒だし」とは加熱してアルコールを飛ばした、所謂「煎酒」「煮切り酒」のことをいうのではないかと私は解釈しています。つまり酒をそのまま調理に使う場合を「酒塩」と言い、アルコールを抜いてから使う場合を「酒だし」と呼んで区別したものと思われます。(江戸時代の料理書「黒白精味集」)

一昨年、和食の専門雑誌が調味料を再検証しようというシリーズで、3ヶ月に亘って日本酒を取り上げました。大手出版社が刊行している食材図鑑ですら、調味料の項目に「酒」が入っていない現状ですから、日本酒を調味料としてはっきり認識した上で取り上げられた点では大いに評価したいと思います。

その特集の概略は次のような内容です。
  1. 出席者は京料理店の料理長 7名と編集者1名の8人による試食と鼎談
  2. 「ぐじの酒蒸し」「すっぽんの丸鍋」「鰻の蒲焼」を四種類の料理酒を使っての比較
  3. 料理酒に含まれるアミノ酸量の測定
その結果導き出された結論として日本酒の調理上の効果は
  1. 消臭効果
  2. 旨味やコクを加える
  3. 煮崩れ防止
  4. 素材の食感を変える

としています。
いずれも間違いではありませんし、出席者に敬意を表したいところですが、日本酒を最も多用してきたはずの京都の職人さん方の認識としては、残念ながらもの足りません。
何故ならば「どうして日本酒が味を良くするのか」という視点が不充分だからです。
「アミノ酸量の多寡が関係しているらしい」というところまで踏み込んでいるだけに残念です。
特にアルコールによる「味の引き出し効果」にまで突っ込んで欲しかったのです。
世界的に見ても極めて優れた和食文化の先頭に立っているはずの料理人さんたちの認識がこの程度では困ります。「和食文化の健全な継承」を使命と自任している私は強い危機感を憶えました。こうした想いを世に問わねばと、あえて「調味研究家」を名のることにしたのです。

少々戻りますが、調理に酒を使う事に、どうして「酒塩」という字を当てるのでしょうか。私は次のように考えています。

  1. 酒は塩と共に最も大切な基本調味料である。
  2. 酒と塩は大変相性が良く、相乗効果を起こして旨味を強く感じさせる。

の二点に集約されるのではないでしょうか。
先ず(1)についてですが、酒と塩の共通点を指摘しているのだと考えます。それは共に「素材から旨味を引き出す作用」を持っているということです。私の体験では、酒の場合は、素材から旨味を引き出す力が70%、旨味を添加する力が30%。塩の場合はその逆で30%・70%と感じています。次に(2)について考えてみましょう。最近はアミノ酸が大変注目されています。
分析機器の発達のお陰で学者によるアミノ酸の研究も急速に進んでいます。中でも私が注目したのは、「アミノ酸を旨味として感じるには塩分との出会いが不可欠である」という研究です。
通常、調理の過程では何らかの形で塩分が加えられますので、アミノ酸との出会いが実現している訳です。科学技術の進歩で味の世界でもヴェールに包まれていた事象が次々に解明されていく事でしょう。先人達は、体験のみでこの「酒塩」という言葉を残してくれたことに感謝せざるを得ません。

次に、「だし」を基本調味料に指名した理由です。素材から酒の力で旨味を引き出し、なお且つ足りない旨味を補うのが「だし」の役割です。
最近は、海外の調理人までもが、日本の「だし」に注目していると言います。その理由として、

  1. 油脂分がないからヘルシー。
  2. 素材の持ち味を邪魔しない。
  3. 短時間で濃いだしが取れる。

というのです。昆布(グルタミン酸)と鰹節(イノシン酸)の相乗効果にびっくりしているのです。
外国人からこんな評価を受けてみると、あらためて和食文化の素晴らしさを再認識しなければなりません。日本食が世界各地でブームになっているという話も頷けます。

さて、前々回お約束しました簡便な「だしのとり方」をご披露しましょう。
料理本や料理人の教える方法は、間違いではありませんが、難しすぎて実用的ではありません。家庭でとるだしは懐石料理を作るためではないのです。少々濁っても差し支えない筈です。私の考案した方法は失敗無く、どなたでも気軽に<だし取り>が楽しめます。
この方法は、良質な料理酒の機能性の高さ(高アルコール・高アミノ酸)の証明でもあります。
是非お試しください。

簡単で、効率的な<だし>の取り方

  1. 鍋に水を入れ、適量の出し昆布と花鰹(煮干)を一緒に入れ、そこに、水の量の2%程の料理酒を入れて下さい。
  2. これを1時間以上放置してください。(水温が低すぎる時はぬるま湯にして下さい)
  3. 後は煮出すだけですが、沸騰したら弱火にして1分ほど加熱して下さい。(殺菌の為)
  4. 濾しましたら、塩を一つまみ加えて下さい。(旨味を確認する為)
  5. 鍋のままで粗熱が取れましたら、タッパーやビンに入れ、冷蔵庫で保存して下さい。(3日位が限度です)

煮物、汁物、鍋物、酢の物、麺つゆ、ポン酢等々誠に便利です。あなたの<美味しい生活>を保証します。
だし取りには昆布(グルタミン酸)と鰹節・煮干(イノシン酸)を一緒に使うのが効果的です。
両者は大変相性が良く、単独で使った時の最大で7~10倍もの旨味が出ると言われています。その上、良質な料理酒が持っている多量のアミノ酸との相乗作用もあり、濃いだしを取る簡便な方法としてお奨めです。

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