オジサンの料理術    日本の食文化について考える料理の基本的な知恵「さしすせそ」

04. 日本酒の調味効果とは

前回と前前回に亘って素材に「味を付ける」前に素材から「味を引き出す」ことこそ調理の基本であり、そのための最もふさわしい調味料が日本酒であると書きました。

    一般的に言われている日本酒の調味効果は
  1. 臭みを取る
  2. 素材を柔らかくする
  3. 隠し味を付ける

に留まっています。これは「調味料とは味を付けるもの」という固定観念に縛られているために他なりません。日本酒に限らず酒類はすべて水、アルコール、エキス分の融合体であると言えます。ご承知の通り、日本酒も水、アルコール、エキス分で出来ています。
その割合はおよそ

水・・・・・・・・・・
82%
アルコール・・・
15%
エキス分・・・・・
3%     と考えてよいでしょう。

従って、調味効果を科学的に検証しようとすれば、水はともかくとしてアルコールとエキス分については、それぞれ別個に考えなければなりません。

アルコールの調味効果

ビール、ワイン、招興酒、日本酒を世界四大醸造酒という言い方があります。いずれも微生物の力を借りて、醗酵・醸造という工程が不可欠なお酒です。こうした見方の中で特徴的なのは、日本酒のアルコール度数が突出して高いのです。ちょっと比較して見ましょう。

* ビール ・・・・ 4~6%
* ワイン ・・・・ 10~12%
* 招興酒 ・・・ 15%前後
* 日本酒 ・・・ 12~19%

この高いアルコール度数と調味効果には密接な関係があるのです。
アルコールには動物性・植物性を問わず、殆んどの油脂類と溶け合う他、タンパク質組織を柔らかくする作用があります。言い方を変えれば、素材に侵みこみ、再び侵み出てくる時に、素材内部の旨味や香り成分を引き出してくれるのです。これを私は「引き出し効果」と言っています。こうしたアルコールの作用を利用している例は、数多くみられます。
果実酒、漢方薬、化粧品などが身近な例でしょう。一番馴染みのある「梅酒」の作り方をみれば良く判ります。
ガチガチの酸っぱくて苦いだけの青梅と、無味のホワイトリカー(アルコール)それに砂糖だけで、あのような芳醇な梅酒が出来上がるのは、アルコールのエキス抽出力に他なりません。
ホワイトリカーのアルコール度数が高いほど、早く仕上がるのが何よりの証明でしょう。
つまり、アルコール度数の高い日本酒ほど調味効果が高いと言えるのです。

エキス分の調味効果

日本酒には17種類のアミノ酸を中心として、ビタミン類8種類(C,B等)を含めてなんと100種類もの微量物質が含まれているのが確認されています。< 酒は百薬の長> という言葉が、科学的に実証されているのです。日本酒を調理に使うことで、飲める飲めないにかかわらず、すべての人がその恩恵に預かれるという訳です。これ程有難い調味料はありません。それらの成分の中で調味に関わっているのはやはりアミノ酸でしょう。

アミノ酸はそれぞれが固有の味を持っています。例えばグルタミン酸=強い旨味・酸味、 アラニン・アルギニン=強い甘味、スレオニン・ロイシン=微かな甘味、チロシン・ヒスチジン=微かな苦味、アスパラギン酸=微かに苦く、弱い酸味といった具合です。
こうした様々な味が渾然一体となって、素材に爽やかな旨味を添加するというのが、日本酒による調味効果の特徴なのです。本来私たちの食生活は、様々な味が入り混じった素材=食品を食べている訳ですから、グルタミン酸ソーダ(化学調味料)たった一つだけの旨味にすべて頼ってしまうことが如何に不自然なことかお判りいただけるでしょう。
素材の真味を生かした調理こそ、飽きの来ない豊かな食生活に繋がります。

少子高齢化が予想を超えた速さで進行する中では、食品消費量の縮小も避けられません。
食品企業にとっても深刻な問題です。これからは、お客さんに飽きられない製品を開発して、継続して買ってくれる固定客を増やすしかありません。その為には飽きのきやすい化学調味料(アミノ酸等)の使用を極力抑え、素材の持ち味を如何にして引き出すかが最大のポイントです。良質な日本酒の使用こそが、最も簡単で、調味効果も大きいのです。

前述した、一般的に言われている酒の効用、(1.)臭みを取る(2.)素材を柔らかくする(3.)隠し味を付ける、という効用があることも否定する訳ではありません。しかし「アルコールによる旨み引き出し効果」と「アミノ酸による旨み添加効果」こそが日本酒の調味効果の最大の特徴なのです。
従ってレシピに、ただ単に「酒」とだけ表示するのは余りにも無責任と言わざるを得ません。
調理に使う日本酒は、アルコール度数が高く、エキス分の多いことが絶対的な条件なのです。
これぞ「究極の調味料」と言ってよいでしょう。

※「オジサンの料理術」に関するご感想・ご意見は … info.02.pod@polano.org
00010203040506070809101112131415161718

ニュースレター

NPO法人 ポラン広場東京
特定非営利活動法人
ポラン広場東京

〒198-0052
東京都青梅市長淵
4-393-11

TEL 0428-22-6821
FAX 0428-25-1880