オジサンの料理術    日本の食文化について考える料理の基本的な知恵「さしすせそ」

18. 料理は「推理と達成感を楽しむゲーム」

「人間は考える葦である」とは17世紀フランスの思想家・哲学者であったブレーズ・パスカルの言葉です。「人間は葦のようにひ弱いものであるが、思考を行う点で他の動物とは異なっている」と解釈されています。何事についても考え、推理をするというのは実に面白いもので、発明・発見はすべて仮説を立てて推理するところから始まります。
素材や調味料に向き合い、調理器具と調理方法を組み合わせて料理するのは本当に楽しいものです。しかもその結果がすぐ判る上に予想を超えた味に仕上がったときの喜びは一入(ひとしお)です。勿論失敗もあるわけですが、味作りの基本を外さなければ大きな間違いはあり得ません。料理はゲーム感覚で大いに楽しんでいただきたいのです。

昨今は情報が溢れているだけに、その取捨選択が難しくなっています。テレビのやらせや捏造問題がいい例でしょう。人気番組を少しでも長く継続したいという想いが先走り、いずれネタ不足に陥ります。その結果、枝葉末節的な事柄を過大に取り上げざるをえなくなり、不祥事につながるのです。テレビというメディアは、「絵になるかどうか」「インパクトがあるかどうか」がすべての判断基準になってしまいますので、恐ろしい一面を持っているのです。出演者も高額なギャラに惑わされて、担当者の言いなりになってしまうきらいがあるのです。こうした危険から身を守るには一人ひとりが基本的な知恵や知識をしっかり身に付けておくしかありません。

ニュース番組を見たり、聞いたりしていて最近特に気になることがあります。今の日本人は「思考停止状態」に陥ってしまっているのではないかとさえ思ってしまいます。
氾濫する情報に振り回されて、じっくり考えることができなくなってしまったのでしょうか。ちょっと考えればすぐ気づきそうなことで、思わぬ犯罪の被害者や加害者になってしまうことが多すぎるのではないでしょうか。もう一つは、政治家は言うに及ばずですが、大企業のトップのモラルの低下です。お詫び会見では「再発防止に努めます」と平身低頭していますが、新聞のお詫び広告は一向に減りません。しかもその活字の小ささにもあきれてしまいます。高齢者には虫眼鏡でしか読めないような小さな字でのお詫び文の掲載がほとんどです。高齢者は消費者ではないとでも思っているのでしょうか。更に新聞社の姿勢も甚だ疑問です。新聞自体の本文の活字は、高齢化に応じて大きくしているにもかかわらず、お詫び文の活字はクライアントのいいなりに小さいままにしているのはどういうわけなのでしょうか。公共性を謳っているはずの新聞社のあり方としては如何なものでしょうか。

本題に戻りましょう。昨年5月から連載させていただいてきたこのシリーズも今回が最終回になります。「オジサンの料理術」というタイトルですので、もっと具体的なレシピを期待されていた方にはご不満が残ったことと思います。しかしレシピありきという料理研究家の皆さんには敢えて異を唱えるという立場で書かせていただきました。レシピがすべてという考え方は料理の面白さ、楽しさを奪ってしまうからです。「レシピいらずの料理術」が私の理想とするところですので、どうかご容赦願います。

さて、初回から前回までの内容をざっとおさらいしてみたいと思います。

  1. 美味しいとはどうことなのかをじっくりお考えいただきたい。
  2. 素材に向き合い、その細胞をどういう状態に調理すれば一番美味しくなるのかをお考えいただきたい。
  3. 日本固有の醸造・発酵調味料が如何に優れたものであるかを再認識していただきたい。
  4. 中でも日本酒がいかに優れた調味料であるかをご認識いただきたい。
  5. 「味を付ける」から「味を引き出す」に意識を変えていただきたい。
  6. 旨味成分のグルタミン酸、イノシン酸、それに塩分との相関関係を理解する。
  7. 「味三代」と言われるように、貴方の食生活はあなたの家族の未来に大きく影響するのだと認識して下さい。
  8. 和食は世界中から羨望の的になっているほど、ヘルシーで調理も簡単だということを再認識してください。
  9. 「安全・安心」は生産者やメーカーに任せるのではなく、ご自身の責任だということを自覚してください。認可している薬の被害すら国は責任を取ろうとしないのですから。
  10. 家庭での食を大切にして、ご家族のコミュニケーションを密にしましょう。

経済優先で、世代間で引き継ぐべき伝統や文化の伝承が疎かにされてきてしまいました。
日本人は「五感で食べる」と言われたほど、「食」に対して繊細な感覚を持っていたはずです。しかし「めんどくさい」「時間が無い」「安い」を理由に安易に外食や中食(主食や惣菜の持ち帰り)に走り、家庭崩壊の大きな要因を作っているのではではないでしょうか。その上、外食、中食の経営者はお客さんの健康を考えた素材や調味料を使っている保証はありません。利益優先で全く逆のことが行われている可能性が大きいのです。
貴方自身が動物実験の被験者にされているのかもしれません。なぜならこの世の中には農薬、食品添加物、遺伝子組み換え作物等が溢れているのですから。

私は常日頃「よくぞ日本に生まれけり」と思っています。北東から南西に3000キロにも及ぶ変化に富んだ美しい日本列島。穏やかな四季とヴァラエティーに富んだ産物。
そして温厚で勤勉な人々。これほど恵まれた国は他にあるのでしょうか。実に幸せなことだと思っています。この国に営々として築かれてきた食文化をなんとか伝承していきたいというのが私の使命であり、切なる願いです。皆さんの豊かな食生活と幸せをお祈りいたします。一年間有難うございました。

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