ぐうたら百姓のすすめ
00.月刊ポラン(1999年10月号~2000年11月号)掲載版
- 「ぐうたら百姓のすすめ」
- 月刊ポラン(1999年10月号~2000年11月号)掲載版
- [副題]
- 家庭菜園はもちろんのこと、有機農業実践編として生産者にも役に立つ土作りのノウハウを公開します。
- 01.
- はじめに / 土とは何かを知ってほしい
- 02.
- 生きた土を育てるには
- 03.
- 理想の土はあるのだろうか / 土を育てる具体的な方法
- 04.
- 続・土を育てる具体的な方法
- 05.
- 土が育つまで
- 06.
- ボカシ肥の作り方と使い方(農業者編)
- 07.
- 生ごみでボカシ肥をつくる(家庭編)
- 08.
- 作物を育てるコツ その1 / ナス科 トマト
- 09.
- 作物を育てるコツ その2 / ナス科 ナス・ピーマン・トウガラシ
- 10.
- 作物を育てるコツ その3 / アブラナ科 キャベツ・ハクサイ
- 11.
- ぐうたらの独り言
- 12.
- 附録その1 : 化学肥料はなぜいけないのか
- 13.
- 附録その2 : 本物の野菜って、どんな野菜?
- [書き手]
- 京都大学農学博士 西村和雄(にしむら・かずお)氏
1945年、京都市生まれ。京都大学農学部修士課程修了。同大学農学部助手などを経て、京都大学フィールド科学教育研究センター講師。専攻は、植物栄養学、植物地球化学。(財)自然農法国際研究開発センター理事、京滋有機農業研究会幹事、国際マングローブ生態系協会永久会員
若かりし頃、大学受験二浪の反動で遊び、登山、マンドリンに熱中。当時読んだレイチェル・カーソンの『沈黙の春』から有機農業へ突っ走る。卒業後、職を二度変えて、1980年京都大学にもどる。京都大学農学研究科附属演習林講師で「森の番人」であった当時、月刊ポランに「ぐうたら百姓のすすめ」を掲載 - [著書]
- 「ぐうたら農法のすすめ 省エネ有機農業実践論」 富士通経営研修所 2001(平成13)年
「新ぐうたら農法のすすめ 省エネ有機農業実践論」 『ぐうたら農法のすすめ』改訂・改題書 人類文化社/桜桃書房 2001(平成13)年
「スローでたのしい 有機農業コツの科学」 七つ森書館 2004(平成16)年
- 西村和雄氏の活動の一端
- 独立行政法人国際協力機構(JICA)サイトのフォトギャラリーに、2004年 ヨルダンの有機農法普及事業として、現地における西村和雄先生の実践講義と技術指導の模様が詳しく報告されています
- 「スローでたのしい 有機農業コツの科学」 七つ森書館 2004(平成16)年
- 帯 : 農業・家庭菜園・ガーデニングにとりくむ方がたへ 有機農業30年の経験をつんだ農学博士の集大成 うまくいくコツが解明されます!
定価 1800円+税
四六判 並製 頁 288ページ
- 「スローでたのしい 有機農業コツの科学」 七つ森書館 2004(平成16)年
- 帯 : 農業・家庭菜園・ガーデニングにとりくむ方がたへ 有機農業30年の経験をつんだ農学博士の集大成 うまくいくコツが解明されます!
定価 1800円+税
四六判 並製 頁 288ページ
第1章 生きている土
- 土とはなにか
- 月には岩屑しかない
- 土はどうしてできるか
- 土は生きている
- 土はつくられる
- 肥沃な土とは
- 究極は、不耕起をめざしましょう
- 土の団粒構造をチェック
- 団粒構造とは?
- 農作業が楽になる
- 誰でもできる団粒構造のみわけかた
- 土を育てるには
- 有機物を知ること
- どんな有機物がよいか
- 有機物によって分解がちがう
- 有機農業にたいせつな二つの法則
- 第1の法則――木は木にかえし、草は草にかえす
- 有機物と好き嫌い
- 第2の法則――生き物には存在する意味がある
- 育土の具体策
- 草を生かす
- 草はなんども刈る
- 刈敷きの下は
- 草は新鮮な有機物
- 牧草を利用する
- 鋤きこんではダメ
- 刈敷きは、いいことずくめ
- 草マルチでやるのはは無理か?
- 手のかからない草生栽培
- 草生栽培について
- 4つの気をつけること
- 共栄作物を基本とした間作・混作について
- 輪作をする上での工夫
- 理想の土の条件は?
- 保肥力を高めれば、理想の土にかえることができる
- 腐植能力を生かす
- 土を育てることは、土壌生物をふやすこと
- 育土のための三つの方法
- 土が育つまで
- ある農家の例
- 落ちこみと減収
- 鶏、豚、牛、馬、マメ、イネ
- 有機物はいちどに分解しない
- 生物が有機物を分解
- 遅れは取りもどせるか
- 有機物は使いわける
- なによりも有機物
- 日本の草
- 緑肥植物
- マメ科
- イネ科
- 緑肥作物の使いかた
- 土壌生物の移植方法
- ボカシ肥のつくりかたと使いかた(農業者編)
- 材料と注意
- つくりかた
- 仕込みの方法
- ボカシ肥の使いかた
- ボカシ肥のつくりかた(家庭編)――生ごみを材料にする場合
- ボカシ肥の補足と注意事項
第2章 植物の栄養
- 栄養のバランス
- 栄養の意味
- 水耕栽培と養分
- 植物の必須元素
- (1) 炭素・酸素・水素
- (2) 窒素
- (3) リン
- (4) カリウム
- (5) マグネシウム
- (6) カルシウム
- (7) イオウ
- (8) 塩素
- (9) 鉄・マンガン・亜鉛・銅・モリブデン
- 必須元素の欠乏と過剰症状
- 症状と診断の仕方
- 作物と土壌によって欠乏や過剰の出方はちがう
第3章 作物づくりのコツ
- 作物をうまく育てるには?
- 作物は人となり
- サボテンはしゃべる
- 作物は故郷が恋しい
- ナス科
- ナス
- ふるさと/水やりと施肥/仕立てかたのコツ/切りもどし/季節感
- トマト
- ふるさと/湿気はきらい――水分はひかえめに、養分は薄めに
育てかたのコツ/養分のカリウムは窒素の二倍必要 - トウガラシ(ピーマン)
- ふるさと/育てかたのコツ
- ジャガイモ
- ふるさと/生育の特徴/芋のできかた/育てかたのコツ
病気とpH養分はカリウムを肥大期に - ネギ類(ユリ科)科
- ネギ
- ふるさと/生育の特徴/施肥のコツ/ネギの品種/抽苔(ネギ坊主)
- タマネギ
- ふるさと/生育の特徴/施肥の注意点/タマネギ選びのコツ
- ニラ
- ラッキョウ
- ニンニク
- アブラナ科
- ダイコン
- ふるさと/間引きのコツ/根の障害の対策
- カブ
- ふるさと/生育の特徴/根の障害の対策
- キャベツ
- ふるさと/生育の特徴/じょうずに結球をさせるコツ
外葉がたいせつ/種のまきどきもだいじ/効能と良品をみわけるコツ - ハクサイ
- ふるさと/生育の特徴――ハクサイがまくわけ/結球のコツ
育てやすい土つくりのコツ - ツケナ類
- ふるさと/生育の特徴/ツケナの種類
- ウリ科
- ウリ科
- ふるさと/育て方のコツ/キュウリは疲れやすい
栄養生長と生殖生長/芽摘みをじょうずにするのがコツ - カボチャ
- ふるさと/生育の特徴
- その他の野菜3種
- ホウレンソウ
- ふるさと/生育の特徴/品種と特性/じょうずな石灰のやりかた
- ニンジン
- ふるさと/育てかたのコツ/根の障害の対策
- イチゴ
- ふるさと/苗の仕立てかた/生育の特徴――受粉
露地栽培と実のとりかた/完熟イチゴの見わけかた - マメ科
- 窒素固定/生育の特徴
- マメと草との競争に打ち勝つには?/マメの分類
- 多収と良品をえるコツ
- 本ものの野菜
- 対称性からわかること/調理のしやすさ
- 栄養価と味
- 種の保存方法
- 農家から教えてもらった方法/炭酸ガスの効果を利用する
- 種の保存方法/注意すること
第4章 病気、虫について
- 植物の必須元素
- (1) はじめに
- (2) 朝の散歩でまなぶこと
- (3) 病虫害を避けるには
- (4) 耕種法とは
- (5) 虫
天敵を利用する方法/フェロモンの利用/植物を使う方法/その他 - (6) 病気
- (7) まとめ
5章 ぐうたらの独り言
- 有機農業は異端/ぐうたら百姓のきっかけ/自然は有限なのだ/現代農業がみすごしているもの/土は生きている/土がくたびれたら?/害虫の見えないミカン園/環境保全型農業について/21世紀の「土」の地平/おわりに
・はじめに (「スローでたのしい 有機農業コツの科学」七つ森書館より抜粋)
健康でおいしい野菜。それこそがわたしたちの健康を維持するために必要な食べ物として求められるべきものです。こうした野菜をつくろう、生産しようとしてとりくんでいるのが有機農業です。
有機農業は、農薬や化学肥料を使わずに作物をつくる方法です。この栽培方法でもって日本各地で、そして世界中で、健康でおいしい、なおかつ安全な野菜や穀物・果物が生産されています。日本でも、有機農業の認証制度がはじまって、有機栽培であるという認証を受けた農産物がでまわるようになってきました。ところが、なかなか手にはいらないのが現状です。その理由は、有機栽培に手間がかかるし、病害虫の防除もふくめて、手がまわりかねるのが現状だからです。消費者のなかには、有機栽培でもって自分で野菜をつくってみたい、あるいは自給できるところまで自分で作物をつくってみたい、そういう思いをもっているかたもおられるのです。ただ、農薬や化学肥料を使わずに、どのようにして野菜を育てるのか、どうしたら土が肥沃になるのかといった基本的なことが、残念ながらわかりづらいのです。
一方で、一坪農園や家庭菜園をされるかたがずいぶんとふえてきました。しかし、世話をする面積がすくないためか、ついつい手をかけすぎるきらいがあります。こうした場合、よけいに養分をやりすぎたり、おおめに農薬を散布してしまったり、すこしでも草が生えたりすると、となりのかたから注意されるといった、好ましからざる問題がおこることがあります。農薬は、なんといってもとりあつかいをきちんと知らないとたいへんなことになりますし、むやみに草を抜くことが、作物や土にとってかならずしもいい結果を生むとはかぎらないのです。
それに養分のやりすぎは、収穫物に過剰の硝酸態窒素が蓄積することになりかねず、これが弊害を生みだすことにもなります。また、いろんな方面のかたがたから「農薬や化学肥料を使わないで作物ができるわけがない」という声を聞くことよくがあります。こうした疑問や問題を、なんとかしなければならないと、かねてから思っていたのです。
わたしが大学を卒業してまもない三十数年前、農薬や化学肥料を使わずに、どうやって作物をつくることができるか、作物を支える土をどうやってつくればよいのか? これらの課題を考えだしたきっかけは、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』でした。その後、いろんなかたとの出会いがあって、健康でおいしい安全な野菜を、農薬や化学肥料を使わずともつくれるのだという確信にかわってきたのです。
しかし、育てるのに手間がかかっては意味がありません。できるだけよぶんな手間をかけずに、誰にでもできるようなやさしい有機栽培の方法はないだろうか。それもしっかりとした裏づけを解説して。
それが本書を執筆した動機だったのです。
(中略)
今回、題名を『ぐうたら農法のすすめ』から『有機農業コツの科学』に改めました。あまり「ぐうたら」でもいけないと思ったからです。「この本ぐうたらじゃないですね。しっかり働かなければって、暗にいってるじゃないですか」そんなことを、あちこちでいわれたこともあって、書名を改めることにしました。これでわたしも、すこしは「ぐうたら」から脱出できそうです。でも、生来の怠けぐせは抜けません。おそらく「明日できることは今日やるな」で、これからもやってゆきそうな予感がしています。
また、版を改めるたびに内容を加えてきました。部分的に書き改めたのはもちろんですが、「植物の栄養」を一章分追加し、「土の団粒構造をチェック」「本ものの野菜」「種の保存方法」などの節を加え、「ぐうたらの独り言」の章は一新しましたので、わたしの書きたかった内容は、ほぼ網羅できたと思っています。
ところで、なぜ「ぐうたら」に私がこだわったのかには、それなりのワケがあるのです。ひとつは、「有機農業は手間がかかる。だから規模をおおきくしては、有機物の確保ができず、農業経営としては成り立つものではない」という話を、よくいわれます。じっさい、有機物を大量に確保するのはかなり困難で、労力が必要とされるため、全面的な実施には踏み切れない事情もあるのです。こうした状況をみてきたわたしにしてみれば、「手間のかからない有機農業はどうすれば可能だろうか?」という課題がずっとつきまとってきたのです。
日本有機農業研究会が発足した、三十数年前。自然農法や有機農業をはじめたパイオニア農家は、言語に絶する辛酸をなめられたのです。村八分・縁者との義絶など、大学紛争もさることながら、すさまじい七〇年代の幕開けでした。それでも、命に直接かかわる食料生産の現場としての農業だからこそ、どのような仕打ちを受けようとも、有機農業をつづけてゆかれたのだと思います。パイオニアのかたがたは、有機農業であることに誇りをもって、その辛酸を乗りこえてこられたのだと、思わずにいられません。
そうしてパイオニア農家のかたがたは、農協や普及員からは白眼視され、農学からの徹底的な批判と無視に耐え、なおかつなんの支援もえられないままに、健康で安全な農産物の生産を目標として、遮二無二、ひたすら有機農業の地平を切り拓いてこられたのです。
それでも、わたしが訪ねた折りに、ニコニコと微笑みながら、いとおしそうに作物をみやり、土を愛でながらわたしに語りかけ、有機農業のなんたるかをていねいに教えてくださったのでした。
こうした経緯があったがゆえに、本書のいたるところで「ぐうたら風」とでてくるのは、先人の苦労をすこしでも楽な有機農業にかえたいという、わたしなりのこだわりがあるからです。
省エネ型のノンビリした余生を送りたいと、住み慣れた京都市内から、京都府中部の田園に引っ越しました。そこで究極の「ぐうたら風」を完成させたかったからです。息子は独立し、連れ合いも自分の生きる道をどうやらつかめたようです。連れ合いにはけっして農作業を要請していません。なぜなら「農」という作業は、それぞれの職業にふさわしい適性があるように、ある種のセンスが必要だからです。家族それぞれが自分の才を生きればよいことですから。それが個性ともよべるものだと、わたしは思っています。
どうやら田園にもなじんできたようです。終の住処は、集落から少し離れた場所で、周囲を小高い丘に囲まれた、小さな谷の突きあたり。毎晩、鹿が一〇頭あまり、休耕田を運動場がわりに使っているようです。猪と狸がそれぞれ五頭と、狐が一頭。暗くなると、われらの世界とばかり、わが家のまわりで跳梁しています。真っ暗な農道を帰ってくると、車にぶつかりそうな勢いで鹿や猪が道を横切り、おどかしてくれます。早朝には、雉の夫婦二つがいが農地を散歩しており、「ケンケーン」と甲高い声で、目覚ましがわりにおこしてくれます。その声に誘われるように大急ぎで長靴に足をいれ、朝露にしっとり濡れた畑にゆくと、背丈よりものびたクロタラリアに赤トンボが休んでいました。羽が朝露に濡れ、まだとべそうにありません。朝の太陽が山の際から最初の一閃をなげ、ひんやりした畑がきらきらと輝くとき、すべてがいとおしくわたしの眼に映える至福のひとときです。
(中略)
欧米では有機農業がさかんです。それというのも欧米では、病害虫のすくないのが理由のひとつだからです。病害虫がすくない理由は、自然がそれほど豊かではなくなったからです。日本をはじめとする、東南アジアのモンスーン地帯では、欧米よりはるかに豊かな自然があります。それだけに病害虫も決してすくなくはないのです。とりわけ日本は、四季の変化がはげしく、冬は亜寒帯になり、夏は亜熱帯になるほど季節がめまぐるしくかわります。そういう意味では豊かすぎるのかもしれません。でも、豊かだということは、病害虫の抑止力も欧米よりはるかにゆきとどくのです。病害虫がわがもの顔にあばれるのを許すほど、日本の自然は寛容ではありません。したがって、病害虫が蔓延することは決してありえないのです。これを利用しないテはないのです。
さあ、すこし「ぐうたら風」に、手を抜いてはいけないところはがんばって、あとはゆっくりと作物の生育にペースをあわせて、スローでたのしい有機栽培を、スローライフとともにはじめてみましょう。
二〇〇四年 秋 日吉町胡麻の寓居にて 西村和雄