フクシマ原発震災を正当に怖がるために

インデックス01-1101-1201 [補足1]01 [補足2]0203040506

04. 飲食物の摂取制限に関する指標/暫定規制値と新規制値

原子力安全委員会「飲食物摂取制限に関する指標」を緩用して厚労省「暫定規制値」を策定

略称 1F (いちエフ) は東京電力福島第1原子力発電所

【2011年】

3月11日
1Fの半径3km以内の住民に避難指示。10km以内に屋内退避を指示
3月12日
午前、1Fの半径10km以内に避難指示。午後、半径20km圏内に拡大
3月15日
1Fから北西20km浪江町周辺255~330μSv/h(年間被曝限度量1mSv=0.114μSv/hの2237~2895倍)。関東1都6県で大気放射線量が通常の7~110倍に急上昇
3月17日
厚労省が食品衛生法の暫定規制値を策定し規制を通知。暫定規制値は原子力安全委員会の「飲食物摂取制限に関する指標」を援用して、この数値超の食品については食品衛生法第6条第2号「有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いがあるもの」として規制。食品安全委員会は諮問を受けて事後評価を行い、3月29日に緊急とりまとめで暫定規制値維持を決定。通常、食品のリスク評価は数ヶ月から1年程度かかるが「1週間程度で一定の結論が出るように…」と政府はスピード策定を要請。食品安全委員長は「本来は10人以上の専門家から聴取し、数百の文献を検討しており、前例のない対応」と
● 飲食物摂取制限に関する指標/2011年暫定規制値と2012年4月適用の新規制値
核種 分類 暫定規制値
(Bq/kg)
4月適用新規制値
(Bq/kg)
放射性ヨウ素
(混合核種の代表核種:131I  ヨウ素131)
飲料水
300
 
牛乳・乳製品 (注)
野菜類 (根菜、芋類を除く)
2000
放射性セシウム 飲料水
200
飲料水
10
牛乳・乳製品 牛乳・乳児用食品
50
野菜類
500
一般食品
100
穀類
肉・卵・魚・その他
ウラン 乳幼児用食品
20
 
飲料水
牛乳・乳製品
野菜類
100
穀類
肉・卵・魚・その他
プルトニウム及び超ウラン元素のアルファ核種
(238Pu,239Pu,240Pu,242Pu,241Am,
242Cm,243Cm,244Cm放射能濃度の合計)
乳幼児用食品
1
飲料水
牛乳・乳製品
野菜類
10
穀物
肉・卵・魚・その他

暫定規制値の放射性ヨウ素:牛乳・乳製品の(注)
100 Bq/kg超のものは、乳児用調製粉乳及び直接飲用に供する乳に使用しないよう指導すること

3月18日
暫定規制値に基づくサンプリング調査の開始
3月19日
福島県川俣町で原乳から放射性ヨウ素932~1510Bq/kg検出
茨城県高萩市でホウレンソウから放射性ヨウ素15020Bq/kg、放射性セシウム524Bq/kg検出
3月20日
福島県で別の原乳から放射性ヨウ素370~5200Bq/kg検出。茨城・栃木・群馬・千葉各県の一部自治体で生産された野菜で規制値超
3月21日
政府の原子力災害対策本部(本部長・内閣総理大臣)は、福島県産の原乳と福島・茨城・栃木・群馬各県産のホウレンソウとカキナを「当分の間、出荷を差し控える」ように各県知事に指示。原子力災害対策特別措置法に基づく初めての全県単位出荷停止pdf(16KB)
3月23日
原子力災害対策本部は原子力災害対策特別措置法に基づき、福島県産野菜の一部を「当分の間、摂取を控えるよう、関係事業者及び住民等に要請すること」と福島県知事に指示
東京都は葛飾区金町浄水場の水で放射性ヨウ素210Bq/l検出のため、23区と多摩地区5市の武蔵野・三鷹・多摩・町田・稲城市で、乳児への水道水摂取を控えるよう呼び掛ける。21日に厚労省は放射性ヨウ素100Bq/kgを超える水道水については乳児の水道水摂取を控えるよう都道府県に通知していた
茨城県産原乳及びパセリの出荷制限
4月04日
千葉県香取市及び多古町産ホウレン草の出荷制限
千葉県旭市産ホウレン草、チンゲンサイ、シュンギク、サンチュ、セルリー、パセリの出荷制限
出荷制限の野菜は1週間毎の検査で3回連続規制値を下回った地域ごとに出荷停止解除
4月05日
北茨城で4月1日に獲れたコオナゴから放射性ヨウ素4080Bq/kg検出。その時点では放射性ヨウ素に関する魚介類の暫定規制値の設定はない。厚労省は魚介類中の放射性ヨウ素の暫定規制値に野菜類の規制値2000Bq/kgを準用すると発表
4月08日
土壌中の放射性セシウム5000Bq/kg超の場合、コメの作付を制限
4月13日
福島県飯舘村産しいたけ(露地原木栽培に限る)の摂取制限
福島県伊達・相馬・南相馬・田村・いわき市、新地・川俣・浪江・双葉・大熊・富岡・楢葉・広野町、飯舘・葛尾・川内村産しいたけ(露地原木栽培に限る)の出荷制限
4月20日
福島県で水揚げされるコウナゴ(イカナゴの稚魚)の出荷制限及び摂取制限
4月25日
福島県本宮市産しいたけ(露地原木栽培に限る)の出荷制限
4月26日
農水省は牛に与える牧草やわら等の飼料に含まれる放射性物質の規制値を新たに設定
乳牛の飼料規制値は放射性ヨウ素70Bq/kg、放射性セシウム300Bq/kg。肉牛はセシウムのみで300Bq/kg。対象は、東北及び関東農政局が管轄する青森・岩手・宮城・秋田・山形・福島・茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨・長野・静岡の各都県
5月11日
神奈川県南足柄市で9日に採取した茶の生葉から放射性セシウム550~570Bq/kg検出
5月13日
福島県北塩原村桧原湖のワカサギといわき市鮫川のアユから規制値500Bq/kg超の放射性セシウム検出、同県内の淡水魚で初
福島県南相馬・本宮市、桑折・国見・川俣町及び西郷村産たけのこの出荷制限
神奈川県小田原市など県内3市町村の茶葉から規制値500Bq/kg超の放射性セシウム検出。11日の段階で県内すべての「足柄茶」の茶葉の出荷自粛と回収
5月20日
福島・茨城・千葉・栃木県の茶葉から規制値超の放射性セシウム検出
5月29日
福島県で淡水魚からセシウム検出、アユ解禁延期
6月02日
生茶葉と乾燥させた「荒茶」の暫定規制値が放射性セシウム500Bq/kgに
茶の出荷制限 茨城県産、神奈川県南足柄・小田原市、愛川・真鶴・湯河原町、清川村産、千葉県野田・成田・八街・富里・山武市、大網白里町産、栃木県鹿沼・大田原市産
茶葉からの放射性セシウム検出は、福島・茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・神奈川・静岡県に
福島県福島市・伊達市・桑折町産ウメの出荷制限
6月06日
福島県相馬市・南相馬市産ウメの出荷制限
6月10日
静岡市葵区の藁科地区の一番茶製茶から放射性セシウム679Bq/kg検出
7月08日
福島県南相馬市から都中央卸売市場に出荷された肉牛に放射性セシウム2300Bq/kg検出
関連記事pdf(156KB)
7月11日
南相馬市の牛から放射性セシウムが検出された問題で餌の藁からセシウム数万Bq/kg検出
7月19日
福島県伊達市・本宮市産しいたけ(施設原木栽培に限る)を出荷制限
福島県において飼養されている牛について、県外への移動(12月齢未満の牛のものを除く)及びと蓄場への出荷の制限。7月28日 宮城県、8月1日 岩手県に対しても出荷制限
出荷されたセシウム汚染の疑いのある肉牛2700頭超が沖縄県を除く46都道府県に流通
(12/01/26) 厚労省が検査対象とした15道県の汚染疑いの肉牛4626頭の内、1月25日までに検査確認されたのは1630頭(35%)、残2996頭は流通先不明と判明
食品安全委員会が食品健康影響評価書(案)「食品に含まれる放射性物質」を提示
8月01日
農水省は堆肥・肥料・培土等の放射性セシウム規制値400Bq/kg (製品重量) を新たに設定
8月29日
福島県福島市及び南相馬市産出ユズの出荷制限・
8月30日
宮城・福島県で捕獲したイノシシの肉から規制値超の放射性セシウム検出
9月07日
栃木県日光市で捕獲した野生シカの肉から最高2037Bq/kgの放射性セシウム検出
9月15日
福島県東部43市町村に野生キノコの摂取及び出荷制限
9月16日
沖縄県でセシウム汚染の疑いのある宮城産牛肉26.6kgが流通していた。制限前に流通した牛の検査は未実施で販売分はすでに消費されており、汚染の有無や程度は不明。出荷された汚染の疑いのある肉牛は全国47都道府県に流通したことになる
(11/01/26) 厚労省が検査対象とした15道県の汚染疑いの肉牛4626頭の内、1月25日までに検査確認されたのは1630頭(35%)、残2996頭は流通先不明と判明
9月20日
福島県南相馬市及び伊達市産クリの出荷制限
厚労省によると、9月5日に採取した南相馬市産クリから放射性セシウム2040Bq/kg検出、同15日に採取した伊達市産では870Bq/kgだった
10月06日
林野庁 きのこ原木及び菌床用培地の当面の指標値(放射性セシウムの濃度の最大値) 設定
(1)きのこ原木:150Bq/kg (乾重量) (2)菌床用培地:150Bq/kg (乾重量)
→ 2012/3/28 移行係数に関する新たな知見により改正
(1)きのこ原木及びほだ木:50Bq/kg (乾重量) (2)菌床用培地及び菌床:200Bq/kg (乾重量)
きのこ原木・菌床用培地、調理加熱用の薪・木炭 放射性セシウムの指標値関連 (林野庁)
10月11日
千葉県我孫子市・君津市産しいたけ(露地原木栽培に限る)の出荷制限
10月14日
茨城県土浦・行方・鉾田・小美玉市産しいたけ(露地原木栽培に限る)の出荷制限
福島県伊達市及び桑折町産出のユズ出荷制限
10月31日
厚労省、薬事・食品衛生審議会放射性物質対策部会で、食品の新規制値設定に向けた検討。食品に含まれる放射性セシウムの暫定規制値(※)について、来年4月を目途に見直しに向けて検討を進める
※[厚労省の説明] 食品に含まれる放射性セシウムの暫定規制値 : 現在、食品全体から許容できる線量を年間5 mSvとした上で、食品ごとに設定されています。現在でも安全は確保されていますが、より一層の食品の安心・安全の確保のため、国際規格などを参考に、許容線量を年間1mSvに引き下げることを基本とし、検討します。子どもへの影響への配慮、放射性セシウム以外の放射性物質についても、科学的知見に基づき検討を行います。
厚労省 薬事・放射性物質対策部会会議 資料より
食品の新規制値設定に向けた検討(1.28MB)
福島県相馬市・いわき市産ナメコ(露地原木栽培)の出荷制限
11月02日
林野庁 調理加熱用の薪及び木炭の「当面の指標値」 設定
(1) 薪:40Bq/kg (乾重量) (2) 木炭:280Bq/kg (乾重量)
きのこ原木・菌床用培地、調理加熱用の薪・木炭 放射性セシウムの指標値関連 (林野庁)
11月07日
栃木県矢板市・鹿沼市産クリタケ(露地原木栽培)の出荷制限
毎日新聞 検証 3/11~11/07:食品汚染 国不全、信頼の絆断つpdf(31.9KB)
11月08日
栃木県大田原市・那須塩原市産クリタケ(露地原木栽培)の出荷制限
11月09日
福島県相双地域12市町村で捕獲されるイノシシ肉に対して摂取及び出荷制限
11月10日
茨城県茨城町産シイタケ(露地・施設原木栽培)・阿見町産シイタケ(露地原木栽培)の出荷制限
11月14日
栃木県10市町産のクリタケ(露地原木栽培)の出荷制限
栃木県那須塩原市・日光市産ナメコ(露地原木栽培)の出荷制限
福島県川俣町産シイタケ(施設原木栽培)の出荷制限
11月17日
福島県福島市(旧小国村の区域に限る)で産出された平成23年産米の出荷制限
11月18日
千葉県流山市産シイタケ(露地原木栽培)の出荷制限
11月25日
福島県県北地域で捕獲されるイノシシ肉に対して摂取及び出荷制限
11月29日
福島県伊達市(旧小国村及び旧月舘町の区域に限る)で産出された平成23年産米の出荷制限
12月02日
福島県の一部地域で捕獲されるイノシシ肉及びクマ肉の出荷制限
茨城県で捕獲されるイノシシ肉の出荷制限
栃木県で捕獲されるイノシシ肉及びシカ肉の出荷制限
12月05日
福島県福島市(旧福島市の区域に限る)で産出された平成23年産米の出荷制限
12月08日
福島県二本松市(旧渋川村の区域に限る)で産出された平成23年産米の出荷制限
12月09日
福島県伊達市(旧柱沢村及び旧富成村の区域に限る)で産出された平成23年産米の出荷制限
福島県相馬市・南相馬市産キウイフルーツの出荷制限
12月19日
福島県伊達市(旧掛田町の区域に限る)で産出された平成23年産米の出荷制限
12月20日
厚労省、暫定基準値に代わる放射性セシウムの新基準値案をまとめる
新基準値算定根拠となる年間被曝許容線量は、現行5mSv/年を1mSv/年に
飲食物を4分類とし、「一般食品(野菜類・穀類・肉・卵・魚・その他)」:100Bq/kg、「乳児用食品」「牛乳」:50Bq/kg、「飲料水」:WHO基準から被曝限度線量を0.1mSv/年、基準値10Bq/kg

22日に同省薬事・食品衛生審議会放射性物質対策部会で提示→年内に文科省放射線審議会に諮問→来年4月に適用
但し、コメ・牛肉などは消費・生産者への周知が必要として、現行暫定値で経過措置を6~9ヶ月設定
12月22日
厚労省、薬事・食品衛生審議会放射性物質対策部会で「新基準値案」公表、承認
千葉県佐倉市産シイタケ(露地原木栽培)の出荷制限

【2012年】

1月04日
福島県伊達市(旧堰本村の区域に限る)で産出された平成23年産米の出荷制限
同県産の米の出荷停止措置は福島・伊達・二本松市の3市9地区に
1月10日
福島県いわき市産出ユズの出荷制限
1月16日
宮城県白石市・角田市産シイタケ(露地原木栽培)の出荷制限
白石市産:1377Bq/kg 角田市産:656.8Bq/kg の放射性セシウム検出
2月03日
農水省 牛用飼料に含まれる放射性セシウムの暫定許容値見直し
300Bq/kg → 100Bq/kg
2月15日
栃木県那須塩原・矢板市産シイタケ(露地及び施設原木栽培)の出荷制限
2月16日
文科省・放射線審議会、厚労省の諮問で審議の「新基準値案」を認める答申
2月23日
千葉県印西市産シイタケ(露地原木栽培)の出荷制限
2月24日
厚労省審議会 放射性セシウム「新基準値」を正式に了承。4月施行
3月08日
宮城県丸森町産シイタケ(露地原木栽培)の出荷制限
3月15日
宮城県蔵王町産シイタケ(露地原木栽培)の出荷制限
3月28日
林野庁 きのこ原木及び菌床用培地の「当面の指標値」 改正
(1)きのこ原木及びほだ木:50Bq/kg (乾重量) (2)菌床用培地及び菌床:200Bq/kg (乾重量)
きのこ原木・菌床用培地、調理加熱用の薪・木炭 放射性セシウムの指標値関連 (林野庁)
3月29日
福島県の一部地域で採捕される天然ヤマメ・ウグイの出荷制限
4月01日
食品中の放射性セシウムの新基準値適用
この後の出荷制限は特別な場合を除き記載なし
8月02日
栃木県日光・真岡・那須塩原市、益子・那珂川町で採取される野生きのこの出荷制限
→ 8/6 日光市(旧今市市内)の複数箇所の山林内で3日に採取した野生チチタケから放射性セシウム31000Bq/kg検出。野生キノコで過去最高値
8月02日
青森県沖太平洋で漁獲されるマダラの出荷制限。青森県の出荷制限は初めて
6/19 八戸沖で漁獲したマダラから放射性セシウム116Bq/kg検出、出荷自粛 → 7/25 解除
8/09 八戸港で水揚げされたマダラから放射性セシウム132.7Bq/kg検出、再び出荷自粛
9月20日
長野県軽井沢・御代田町で採取される野生きのこの出荷制限。長野県の出荷制限は初めて
8月下旬 御代田町東部の国有林で採取 「ショウゲンジ」 (放射性セシウム 630Bq/kg)
9月11日 軽井沢町東部の私有林で採取 「チチタケ」 (同 330Bq/kg)
10月26日
山梨県富士吉田市、富士河口湖町、鳴沢村で採取される野生きのこの出荷制限
山梨県の出荷制限は初めて
23日 鳴沢村 「ショウゲンジ」「シロナメツムタケ」 (放射性セシウム 360Bq/kg)
25日 富士吉田市 「キヌメリガサ」 (同 340Bq/kg)
25日 富士河口湖町 「シロナメツムタケ」 (同 160Bq/kg)
暫定規制値は「食品貿易規格」と「原子力災害対策規格」を参考に

厚労省が食品衛生法の暫定規制値を策定する際に、「CODEX(コーデックス)規格」と「飲食物摂取制限に関する指標」の2つを参考にしました
「CODEX規格」とは、消費者の健康の保護、食品の公正な貿易の確保等を目的として1963年に国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が合同で設置した「コーデックス委員会」が定めた食品規格です。その規格指標は最も安全側に設定されており「対策を考えなくても良いレベル」で食品貿易を公正に行えるように国際食品規格として提示されたものです。これによれば、ヨウ素とセシウムの摂取制限値は、乳幼児用食品とその他の食品は共に「ヨウ素100Bq/kg」「セシウム1000Bq/kg」
もう一つの「飲食物摂取制限に関する指標」とは、原子力災害対策特別措置法に基づいて飲食物の摂取制限を行うときに、規制介入の目安としている値です。これによれば、ヨウ素は「飲料水・牛乳・乳製品300Bq/kg」「野菜類2000Bq/kg」、セシウムは「飲料水・牛乳・乳製品200Bq/kg」「野菜類・穀類・肉・卵・魚500Bq/kg」

原子力安全委員会の「飲食物摂取制限に関する指標」は原子力災害の防災指針

1979年米国スリーマイルアイランド原子力発電所事故を契機に検討された原子力災害の防災指針「原子力施設等の防災対策について(※)」の第5章に「災害応急対策の実施のための指針」があります
「5-3 防護対策のための指標」には「防護対策をとるための指標は、なんらかの対策を講じなければ個人が受けると予想される線量(予測線量)又は実測値としての飲食物中の放射性物質の濃度として表される。」「(3) 飲食物の摂取制限に関する指標 飲食物摂取制限に関する放射性元素として、放射性プルームに起因するヨウ素、ウラン及びプルトニウムを選定するとともに、旧ソ連チェルノブイル事故時の経験を踏まえてセシウムを選定した。そして、これらの核種による被ばくを低減するとの観点から実測による放射性物質の濃度として表3のとおり飲食物摂取制限に関する指標を提案する。なお、この指標は災害対策本部等が飲食物の摂取制限措置を講ずることが適切であるか否かの検討を開始するめやすを示すものである。」
ここで示された指標が厚労省の食品衛生法の暫定規制値として援用したものです

原子力安全委員会 原子力施設等の防災対策についてpdf(2.49MB)

防災対策の「付属資料14 飲食物摂取制限に関する指標について」は以下の記述です

原子力施設等の防災対策について「5-3 防護のための指標」の表3 飲食物摂取制限に関する指標に示した値の算出についての考え方を以下に示す。
(1) 放射性ヨウ素について
ICRP Publication 63等の国際的動向を踏まえ(※)、甲状腺(等価)線量50mSv/年を基礎として、飲料水、牛乳・乳製品及び野菜類(根菜、芋類を除く)の3つの食品カテゴリーについて指標を策定した。なお、3つの食品カテゴリー以外の穀類、肉類等を除いたのは、放射性ヨウ素は半減期が短く、これらの食品においては、食品中への蓄積や人体への移行の程度が小さいからである。
3つの食品カテゴリーに関する摂取制限指標を算定するに当たっては、まず、3つの食品カテゴリー以外の食品の摂取を考慮して、50mSv/年の2/3を基準とし、これを3つの食品カテゴリーに均等に1/3ずつ割り当てた。次に我が国における食品の摂取量を考慮して、それぞれの甲状腺(等価)線量に相当する各食品カテゴリー毎の摂取制限指標(単位摂取量当たりの放射能)を算出した。
(2) 放射性セシウムについて
放射性セシウム及びストロンチウムについても飲食物摂取制限の指標導入の必要性が認識されたことを踏まえ、全食品を飲料水、牛乳・乳製品、野菜類、穀類及び肉・卵・魚・その他の5つのカテゴリーに分けて指標を算定した。
指標を算定するに当たっては、セシウムの環境への放出には89Sr及び90Sr(137Csと90Srの放射能比を0.1と仮定)が伴うことから、これら放射性セシウム及びストロンチウムからの寄与の合計の線量をもとに算定するが、指標値としては放射能分析の迅速性の観点から134Cs及び137Csの合計放射能値を用いた。
具体的には、実効線量5mSv/年を各食品カテゴリーに均等に1/5ずつ割り当て、さらに我が国におけるこれら食品の摂取量及び放射性セシウム及びストロンチウムの寄与を考慮して、各食品カテゴリー毎に134Cs及び137Csについての摂取制限指標を算出した。
(3) ウラン元素について
核燃料施設の防災対策をより実効性あるものとするため、ウランについて我が国の食生活等を考慮して指標を定めるとの方針のもとに、実効線量5mSv/年を基礎に、全食品を飲料水、牛乳・乳製品、野菜類、穀類及び肉・卵・魚・その他の5つのカテゴリーに分けて指標を算定した。
指標を算定するに当たっては、5%濃縮度の235Uが全食品に含まれ、これが5mSv/年に相当すると仮定し、さらに我が国における食品の摂取量を考慮して、各食品カテゴリー毎に飲食物摂取制限に関する指標を算出した。
(4) プルトニウム及び超ウラン元素のアルファ核種について再処理施設の防災対策をより実効性あるものとするため、IAEAの「電離放射線に対する防護及び放射線源の安全に関する国際基本」(BSS)に記載されているアルファ核種(アメリシウム、プルトニウム等)について我が国の食生活等を考慮して指標を定めるとの方針のもとに、実効線量5mSv/年を基礎に、全食品を飲料水、牛乳・乳製品、野菜類、穀類及び肉・卵・魚・その他の5つのカテゴリーに分けて指標を算定した。
指標を算定するに当たっては、多種類のアルファ核種が共存して放出される可能性があるので、核種毎に指標を作成することはせず、アルファ核種が全食品に含まれ、これが5mSv/年に相当すると仮定し、さらに我が国における食品の摂取量を考慮して、各食品カテゴリー毎に飲食物摂取制限に関する指標を算出した。

ICRP Publication 109 日本語版ドラフト JRIA暫定翻訳版pdf(1.04MB)
国際放射線防護委員レポート109号「緊急時被ばく状況における人々に対する防護のための委員会勧告の適用」

ICRP Publication 111 日本語版ドラフト JRIA暫定翻訳版pdf(831KB)
国際放射線防護委員レポート111号「原子力事故又は放射線緊急事態後における長期汚染地域に居住する人々の防護に対する委員会勧告の適用」

ICRP・国際放射線防護委員会の勧告

ICRPは専門家の立場から放射線防護に関する勧告を行う国際学術組織。その勧告は世界各国の放射線障害防止に関する法令の基礎にされ、2007年勧告では、年間被曝放射線量を平常時は1mSv以下、緊急時には20~100mSv以下、緊急事故後の復旧時は1~20mSv以下と定めています
日本政府もICRPの勧告に準拠して国内の放射線防護基準を定め、原子力安全委員会の原子力施設等の防災対策にもその基準が示され、フクシマ原発緊急事態期や緊急事故後の復旧時の管理基準にも2007年勧告が反映しています

● 放射性核種に係る日本、各国及びCodex(コーデックス)の指標値    単位:Bq/kg
  放射性ヨウ素I-131 放射性セシウムCs-134+Cs-137
飲料水 牛乳・乳製品 野菜類(除根菜・芋類) その他 飲料水 牛乳・乳製品 野菜類 穀類 肉・卵・魚・その他
日本
300
300
2000
魚介類2000
200
200
500
500
500
Codex
100
100
100
100
1000
1000
1000
1000
1000
シンガポール
100
100
100
100
1000
1000
1000
1000
1000
タイ
100
100
100
100
500
500
500
500
500
韓国
300
150
300
300
370
370
370
370
370
香港
100
100
100
100
1000
1000
1000
1000
1000
台湾
300
55
300
300
370
370
370
370
370
フィリピン
1000
1000
1000
1000
1000
1000
1000
1000
1000
ベトナム
100
100
100
100
1000
1000
1000
1000
1000
マレーシア
100
100
100
100
1000
1000
1000
1000
1000
米国
170
170
170
170
1200
1200
1200
1200
1200
EU
300
300
2000
2000
200
200
500
500
500

注1) Codex(コーデックス)においては、放射性ヨウ素の欄に記載した数値(100)は、Sr90、Ru106、I129、I131、U235の合計
放射性セシウムの欄に記載した数値(1000)は、S35、Co60、Sr89、Ru103、Cs134、Cs137、Ce144、Ir192の合計
注2) EUについては、日本の食品にのみ適用する規制値を掲載

2011年9月19日 日経新聞 放射線と健康、基準統一を ICRP ゴンザレス副委員長

福島第1原子力発電所事故を契機に放射線の健康影響について関心が高まっているが、わかりにくく戸惑うことが多い。福島市で開かれた放射線安全の専門家会議に参加した国際放射線防護委員会(ICRP) のアベル・ゴンザレス副委員長に課題などを聞いた。

…… ICRPにとり福島事故の教訓は何か。

放射線の影響の大きさを示す単位や用語などがわかりにくく誤解や誤用を招いた。例えば放射線の人体への影響を示す「等価線量」「実効線量」といった概念が混同され、健康影響について一般の人たちが理解を深める妨げになっている。
国際機関がばらばらに基準をつくるため、飲料水と清涼飲料に含まれる放射性物質の安全基準が異なり整合性がとれないなど人々を惑わす原因になっている。
福島の教訓を取り入れて基準を見直したい。放射線や食品安全をめぐる不安や混乱は日本にとどまらず世界各国で起きており、用語や基準の整理や統一に取り組む必要がある。10月に米国で開く委員会に私が課題をまとめた報告書を出し来年末までに改革案をまとめたい。

…… 住民の健康を守るうえで福島事故後に東京電力や日本政府がとった行動をどう評価するか。

きちんとした安全対策を講じていればこれほど深刻な事故は防げたかもしれず、事前の対策で東京電力が犯した過ちは大きい。しかし事故発生後の混乱の中で対応は最善を尽くしたのではないか。その点を非難するつもりはない。
私が個人的に最も心配に思うのはスティグマ(偏見) だ。被曝した人への社会の偏見や、その人たち自身が被曝の事実を恥じて苦しむ。チェルノブイリでも多くの人が苦しんだのを見てきた。精神的な苦痛は長く深い。大事なのは、可能な限りスティグマを生み出さないことであり、放射線の影響について過剰に誇張した情報を流すことをメディアは慎んでほしい。

[解説] 放射線の健康影響、基準乱立し用語も複雑

ICRPは世界共通の放射線安全対策の基礎となる枠組みを決める。国連の放射線影響に関する科学委員会が集めたデータに基づき、ICRPが基本的考え方を示し、世界保健機関(WHO) や国際原子力機関(IAEA) がそれぞれの分野での具体的な安全基準を定める。
WHOの飲料水の基準と、食品安全規格の委員会(CODEX) による清涼飲料水の基準が異なるなど、機関によってばらばらだ。
もっとわかりにくいのが、生体への放射線影響を表す専門用語。アルファ線やガンマ線など放射線の種類による違いを考慮して放射線の影響の大きさを示すのが「等価線量」。同じ等価線量を浴びても臓器によって影響が異なる。この違いを踏まえて全身の影響を算出したのが「実効線量」だ。健康影響を論ずる場合は実効線量を使うのが通常は適切だ。
またICRPは「100mSvの被曝で発がんの長期リスクが0.5%上がる」というリスク係数を公表しているが、この係数に被曝した人口を掛け合わせ「1万人が100mSvを浴びたのでがん発症が50人増える」と考えるのは「正しくない」という。係数は性別や年齢などを考慮していない名目的な数値で実態とかけ離れる恐れがあるからだ。
入り組んだ科学的知識をわかりやすく使いやすい体系にまとめ直すことを求められている。またゴンザレス氏は政府などの対応を「最善を尽くした」とするが、住民の避難指示などが適切とはほど遠かったのが現実だ。

● 輸入食品放射性物質の規制指標

1986年旧ソ連チェルノブイリ原子力発電所事故を契機に検討された放射性物質汚染食品への規制があります。同年に厚生省(現厚労省)は輸入食品中の放射性物質を規制する暫定規制値を策定し、セシウム134・137の濃度370Bq/kg以下としています。この規制値を越える食品については積み戻し措置となります
この暫定規制値の施行1年後に、(1)1988年に公衆に対する線量限度原則として1mSv/年(ICRP1985年パリ声明)の国内法令への取り入れが予定されていたこと(2)1年以上の輸入食品の分析データから主な放射性核種の存在比が分かったこと(3)対象食品はヨーロッパ地域原産のものと限定してよいことなどから再評価をした結果、現行の規制値を継続すれば公衆の被曝線量はICRP勧告値に適応し十分安全を見込んだ妥当なものであるとしました

食品安全委員会 生涯における追加の累積線量100mSv基準

2011.07.26 
食品安全委員会委員長からのメッセージ
~食品に含まれる放射性物質の食品健康影響評価について (抜粋)~

  1. 福島第1原発事故に伴う食品の放射性物質による汚染に関し、平成23年3月17日から厚生労働省で食品衛生上の暫定規制値を設定し、管理が行われています。この暫定規制は、緊急を要するために食品安全委員会の食品健康影響評価を受けずに定めたものであったことから、3月20日の厚生労働大臣からの諮問を受け、3月29日に緊急とりまとめをしました。この緊急とりまとめでは、放射性物質の発がん性のリスクや胎児への影響等に関する詳細な検討、ウラン等の曝露状況を踏まえた上での評価等が今後の課題となっておりました。
    このため、4月から緻密で詳細な審議が行われてきました。客観的かつ中立公正に科学的知見に基づいて審議をするため、国際機関等による評価を参照するだけではなく、その元となった文献にも遡って科学的知見を検証すべく、国内外の放射線影響に関する非常に多くの文献にあたり、9回の会合を重ねて食品健康影響評価書案がとりまとめられ、本日パブリックコメントの手続きを行っていくことを決定しました。
  2. 放射線による健康への影響が見いだせるのは、現在の科学的知見では、通常の一般生活において受ける放射線量を除いた生涯における追加の累積線量として、おおよそ100mSv以上と判断されています。小児に関しては、甲状腺がんや白血病といった点でより影響を受けやすい可能性があるとされています。
    食品安全委員会が行うのは食品健康影響評価ですので、この値はあくまで食品のみから追加的な被曝を受けたことを前提としていますが、この根拠となった科学的知見については、収集された文献に内部被曝のデータが極めて少なく評価を行うには充分でなかったため、外部被曝も含まれた現実の疫学のデータを用いることとしました。
    累積線量としておおよそ100mSvという値は、生涯にわたる追加的な被曝による線量の合計がこの値を超えた場合に、この被曝を原因とした健康上の影響が出る可能性が高まるということが統計的に示されているもので、大規模な疫学調査によって検出された事象を安全側に立って判断されたおおよその値です。文献において、明らかに健康上の影響が出始めると考えられる数値データは錯綜していましたが、この値はそれらも踏まえて検討されたものです。累積線量としておおよそ100mSvをどのように年間に振り分けるかはリスク管理機関の判断になります。
  3. 3月29日の緊急取りまとめは、緊急時における取扱いを示したものであり、累積線量で示した今回の考え方は緊急時の対応と矛盾するものではありません。
  4. なお、100mSv未満の放射線量における健康への影響については、放射線以外の様々な影響と明確に区別できない可能性や根拠となる疫学データの対象集団の規模が小さいことや曝露量の不正確さなどのために追加的な被曝による発がん等の健康影響を証明できないという限界があるため、現在の科学では影響があるともないとも言えず、100mSvは閾値(毒性評価において、ある物質が一定量までは毒性を示さないが、その量を超えると毒性を示すときの値)とは言えないものです。
  5. 「食品に関して年間何mSvまでは安全」といった明確な線を引いたものになっていませんが、食品安全委員会としては、科学的・中立的に食品健康影響評価を行う独立機関として、現在の科学においてわかっていることとわかっていないことについて、可能な限りの知見を誠実に示したものとご理解いただければと考えています。今後は、食品からの放射性物質の検出状況、日本人の食物摂取の実態等を勘案しながら、リスク管理機関において適切な管理措置がとられることを期待しています。

食品安全委員会委員長 小泉直子

食品安全委員会委員長からのメッセージpdf(122KB)
資料:評価書(案)食品に含まれる放射性物質pdf(1.41MB)
参考1:論点に関する座長メモpdf(108KB)
参考2:放射性物質に関する緊急とりまとめpdf(426KB)

2011年7月22日 朝日新聞 「生涯被曝100ミリ基準」 食品安全委の事務局案

放射性物質が人体に与える影響を検討していた食品安全委員会の作業部会で21日、「発がん影響が明らかになるのは、生涯の累積線量で100mSv以上」とする事務局案が示された。食品だけでなく、外部環境からの被曝を含む。平時から浴びている自然由来の放射線量は除いた。この案を軸に来週にも最終結論を出し、厚生労働省に答申する。ただ厚労省からは「基準づくりは難航しそうだ」と、戸惑いの声があがっている。
東京電力福島第1原発事故を受け、厚労省は3月17日に食品衛生法に基づき、放射性物質に汚染された食品の流通を規制する暫定基準を設定。この基準の科学的根拠を得るため、食品からの被曝による健康影響評価を同委に諮問していた。同委は当初、食品だけからの被曝レベルを検討。国際放射線防護委員会(ICRP)勧告の元になった論文を含め、様々な国際的な研究を精査した。だが食品とその他の被曝を分けて論じた論文は少なく、「健康影響を内部と外部の被曝に分けては示せない」と判断。外部被曝も含め、生涯受ける放射線の総量を示す方向を打ち出した。宇宙からの放射線など平時から浴びている自然放射線量(日本で平均、年間約1.5mSv)は除く。
生涯の累積線量を目安に考えるということは、例えば、緊急時に一時的に20mSvを浴びたら、残りの生涯で被曝を80mSv以下に抑えるのが望ましいとするものだ。
また、子どもや胎児については成人より影響を受けやすいという研究があり、事務局案では「留意が必要」としている。
ICRPの考え方では「100mSvを浴びると、発がんリスクが0.5%上がる」とされる。
外部被曝も含めた形で結論を出すことに委員の一人は「本来は原子力安全委員会など他の政府機関でやるべきだが、他がやっていないので仕方ない」と話す。
緊急時を想定した現行の暫定基準は、食品からの年間被曝量をヨウ素やセシウムなど核種ごとに割り当て、全体で年17mSvを超えないように設定されている。
食品安全委の答申が出れば、厚労省は食品ごとの基準を改めて検討することになる。担当者は「年間被曝量で答申されると想定していた。生涯累積線量だと、若者から高齢者まで年代ごとに摂取量を考えなければならず、作業に時間がかかりそうだ」と話した。

2011年7月26日 朝日新聞 生涯被曝100mSvを答申へ 食品安全委

放射性物質が人体に与える影響を検討していた食品安全委員会の作業部会は26日午前に会合を開いた。「悪影響が見いだされるのは、生涯の累積で100mSv以上」とする結論をまとめる。平時から浴びている自然由来の放射線量は除く。今後パブリックコメントを経て、同委は8月下旬にも厚生労働省へ答申する。
福島第1原子力発電所の事故を受けて、健康影響が明確になる被曝総量の目安を政府機関として示すのは初めて。答申が出れば、厚労省は食品の基準を改めて検討し直すことになる。 
現在、食品の流通を規制するために使っている基準は暫定値。科学的な根拠を得るため、厚労省が食品安全委に諮問していた。

2011年7月26日 毎日新聞 生涯累積線量:生涯被曝限度100mSv 食品安全委、規制値を再検討

食品を通じた放射性物質の影響を評価していた食品安全委員会は26日、内部被曝と外部被曝を合わせ、生涯の累積線量の限度を100mSvとする答申案を発表した。同委の作業部会はこれまで広島・長崎の被爆者疫学データなどを検討し、成人については「100mSvを超えるとがんのリスク増加など健康影響が明確」と判断した。また、「大人より感受性の強い子供にも留意する必要がある」とし、子供の健康に配慮した規制値の必要性も示した。
食品安全委は3月29日に緊急とりまとめとして、放射性セシウムは年5mSv以下との数値を答申していた。生涯100mSvは、人生80年とすると1年あたり1.25mSv。放射性セシウムで年5mSvという今の数値に比べて相当に低い。
厚生労働省は今後、食品安全委の答申に基づき、飲料水や野菜など食品ごとの規制値を見直していく。肉と穀類の放射性セシウムの暫定規制値500Bq/kgが引き下げられる余地もある。課題も多く、これまでの放射線量は年単位だが答申案の線量は生涯にわたる。規制値作りにあたっては、年単位に割りふり、内部被曝と外部被曝の割合も考える必要がある。国際放射線防護委員会(ICRP)は規制の数値を緊急時、復旧時、平常時の3つに分けているが、答申案は一切区別しておらず、議論になりそうだ。
佐々木康人・日本アイソトープ協会常務理事は「累積100mSvを緊急時に適用すると食品の規制値がきわめて厳しくなる可能性がある」と懸念する。甲斐倫明・大分県立看護科学大教授は「今は平常時に向かう過渡期なので、放射性物質ごとに細かい設定が求められる。国際的に信頼を得るためにも、規制値は基本的に下げる方向でいい」と話している。
作業部会座長の山添康・東北大教授(薬学)は「生涯100mSvは1年換算で1mSv程度になり、かなり厳しい値。より安全側に立って判断した」としながらも、「状況に応じたリスク管理をしてほしい」と語った。
一方、食品安全委は100mSv以下なら確実に安全という根拠は見いだせなかった。また、食品を通じてセシウムやストロンチウムなどを体に取り込んだ場合の影響は評価するデータがなく、毒性が強いウランを除き、放射性物質ごとに上限値を決めることはできなかった。

2011年7月26日 日経新聞 食品安全委が被曝限度「生涯100mSv」、暫定規制値見直しも

食品に含まれる放射性物質が健康に与える影響について、内閣府の食品安全委員会の作業部会は26日、「通常の一般生活で受ける放射線量を除き、生涯の累積線量が100mSv以上で影響が見いだされる」とする評価書で合意、了承した。評価書では「小児はより影響を受けやすい可能性がある」とも指摘。同委は評価書について国民の意見を聞いた上で、厚生労働省に答申する方針。
福島第1原子力発電所の事故を受けて厚労省が策定した被曝の暫定規制値は1年間に受ける放射線量の限度を基準としている。例えば放射性セシウムは年間5mSvを上限としている。答申が生涯の累積線量を基準とした場合、厚労省が暫定規制値を見直す可能性もある。「年間5mSv」は食品安全委が3月末の緊急とりまとめで示した基準だが、単純計算では年間5mSvを浴びると、累積で100mSvに達する期間は20年になってしまう。
評価書の基準は内部被曝だけでなく、通常の一般生活で受ける放射線量を除いた外部被曝も含んでいる。このため作業部会の評価書を基に生涯で100mSvを上限にすると、年間1mSvよりさらに厳しい規制になる可能性もある。厚労省は評価書の内容について「規制値をどう変更すればいいのか分からない」と困惑する。理由は「生涯で累積線量100mSv以上」が内部被曝だけでなく、外部被曝も含んでいるためだ。食品安全委の小泉直子委員長は「収集した文献に内部被曝のデータが極めて少なく、十分評価できず、外部被曝も含めたデータを使った」と説明する。
厚労省が福島第1原子力発電所の事故を受け、3月に策定した食品の暫定規制値は内部被曝のみが前提。例えば放射性セシウムは年間5mSvを基準として、日本人の平均食品摂取量などから牛肉は500Bq/kgなどに換算している。
文部科学省が示している外部被曝の基準などの考慮も必要で、規制値の見直し作業は難航が予想される。文科省は福島県内の子供について年間20mSvを超えないよう屋外活動を制限する放射線量の基準を設けているが、外部被曝線量は国内の地域によって異なる。このため外部被曝の程度によって、内部被曝の許容量が変わってしまい、規制値を設けるのは難しくなる。
また作業部会が根拠とした論文は、広島や長崎の原爆で瞬間的に100mSvの放射線量を浴びた場合にがんになるリスクが高まるというデータに基づいている。作業部会では「瞬間的に浴びた放射線量の基準を、低い線量の放射線を長期間浴びた場合の基準にするのはおかしいのではないか」という意見も出た。
さらに、これまで基準とする期間は「年間」だったが、食品安全委は今回、「生涯」を基準とした。この点についても厚労省は「年齢によって平均余命は異なる。乳幼児や小児など平均余命の長い人を基準にすると、成人や高齢者にとっては極めて厳しい規制値になってしまう」と戸惑う。
こうした状況を踏まえ、作業部会の座長、山添康・東北大教授(薬学)は「現在の規制値は安全を重視し、かなり厳しい」として、「極端に変更する必要はないのではないか」との見解を示した。
食品安全委のある委員は「当面は現在の規制値とし、数年後に生涯の累積線量が100mSvを超えないように強化することも考えられるのではないか」と話す。同委は評価書について国民の意見を聞いたうえで来月下旬以降に厚労省に答申する方針だ。

フクシマ原発震災による食品の放射性物質汚染の状況や傾向

食品安全委員会 食品中の放射性物質に関する情報 > 評価書 (食品中に含まれる放射性物質の食品健康影響評価) 2011.10.27

厚生労働省は自治体発表データをとりまとめ、その内容を「報道発表資料」として発表しています
厚生労働省の「報道発表資料」からデータを取得して、(財)食品流通構造改善促進機構が食品の放射能検査データを検索できるようにしたものです

[参考] 消費者庁「食品と放射能 Q&A」 (平成23年7月1日版)pdf(2.85MB)

飲食物の放射性物質の測定と分析方法

厚生労働省 緊急時における食品の放射能測定マニュアルpdf(399KB)
原子力施設の事故等緊急時における農畜水産食品の放射性物質による汚染に関しての測定と分析方法についてとりまとめたもの。食品の安全を確認する際に参考となるものであり、第1章 基本的な考え方、第2章 食品中の放射能の各種分析法、参考として緊急時モニタリング計画における食品の放射能測定・分析、被曝線量等の推定と評価及び解説から構成されている

  • この頁は、原発震災状況の把握の目的において、「Fair Use 公正使用」の考えに基づいて作成しています
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